彌中敏和(やなかとしかず)氏。
国内外に多角展開する「GK Design Group」。その一角を担う株式会社GKデザイン総研広島の代表取締役として多くのデザイナー達を統率しながら、広島駅新幹線口の「GRANODE広島」、エディオンピースウィングスタジアム横の「ひろしまスタジアムパーク HiroPa」、アストラムラインの新型列車「ASTRAM 7000系」、紙屋町・八丁堀のランドスケープ「カミハチキテル」など、広島のアイコンを多数生み出してきた。
「機能」「使いやすさ」「安全性」「美しさ」「ブランド性」「気品」など、製品の全てを総合的にデザインしなければならないインダストリアルデザインを広島で牽引し、クライアント、そしてその向こうにいる使い手にまで感動を届けるデザインは、もはや魔法とも呼べる。
いかにして「魔法」をかけ完成させるのか。 筆者は、TV出演していた同氏を視たときから強い関心を抱き、伝手を辿り会いに行った。この世界を志したいきさつ、アイデアのインプット、持続可能な建築の未来。多忙を極める彌中氏は、そのような状況下においても、非常に穏やかな口調で、しかし、しっかりと自身の思想を語ってくれた。

株式会社GKデザイン総研広島 代表取締役 彌中敏和
1968年 福岡県生まれ
1991年 九州芸術工科大学 芸術工学部 環境設計学科 卒業
同年 株式会社デザイン総研広島(GKデザイン総研広島の前身) 入社
2012年 GKデザイン総研広島 取締役 就任
2013年 同社 代表取締役社長 就任
AWORD
2000年 「元安川オープンカフェ&パラソルギャラリー」都市環境デザイン会議 JUDI大賞/優秀賞
日本サインデザイン協会 第34回SDA賞/準優秀賞
2007年 「秋葉原UDX環境デザイン」日本サインデザイン協会 第40回SDA賞/大賞
2009年 「京阪電鉄 中之島線 駅環境デザイン」
グッドデザイン選定商品(Gマーク)/ 社会領域 – 公共・文化教育関連施設部門
2015年 「JRシティネットワーク広島のブランディング」グッドデザイン選定商品/ 移動用機器・設備部門
2017年 「半田運河周辺地区 景観整備計画」UDC都市景観大賞 都市空間部門 大賞
2018年 「叡山電鉄 デオ730形「ひえい」」2019年度ローレル賞(鉄道友の会)
2019年 「クルーズフェリー「シーパセオ」」グッドデザイン賞 グッドデザイン・ベスト100
2021年 「新交通システム車両「アストラムライン7000系」」グッドデザイン賞 鉄道・船舶・航空機部門
2025年 「こころホスピタル草津 サイン計画」日本サインデザイン協会 第59回SDA賞 中国地区賞
2026年 「京福電鉄 KYOTORAM」2026年度ブルーリボン賞(鉄道友の会)

こころホスピタル草津
建築士を目指したきっかけ
「建物を建てたいのではなく、緻密な実施設計図を書いてみたかった」
そんな一風変わった動機から、彌中氏の建築・空間への歩みは始まった。
進学した九州芸術工科大学(現・九州大学)では、木工や溶接、美術から人間工学まで、あらゆる分野を泥臭く実践。
その経験が「建築だけ」という枠を軽々と飛び越えさせる。
バブル期の売り手市場の中、彼が選んだのは、建築も土木もプロダクトも地続きで捉える「GKデザイン総研広島」だった。入社後、最初に没頭したのは建築ではなく自然と対峙する土木設計。1970年大阪万博以来、土木と建築の隙間を繋いできたGKの哲学と、大学で何でも叩き込まれた彌中氏の思考は、運命的にピタッと合致した。
領域の境界を融かし、すべてを「環境」としてデザインする。そのラッキーな原点こそが、現在の彼の強固な糧となっている。

グラノード広島
ご自身の印象に残っている作品を教えてください
長年「陸の乗り物」のデザインに携わりながら、海に近い広島の事務所として「いつかは海のものを」と願い続けた彌中氏の思いが結実したのが、2019年に誕生した瀬戸内海汽船のカーフェリー「SEA PASEO(シーパセオ)」だ。
30年ぶりの客船建造にあたり、社長の「グッドデザイン賞を狙う、新しい乗り物を作ろう」という決意から始まったこの異例のプロジェクト。
彌中氏は瀬戸内海汽船の様々な職域の方々と「未来新聞」を描き、目指すべき未来のビジョンを共有した。
導き出したコンセプトは、誰もに開かれた「公園(パーク)」。
船そのものを楽しむのではなく、瀬戸内海という素晴らしい航路を体験するための場所だ。
船内には、人の視線を気にせず寛げる多彩なシート、フードコートを思わせる軽食スペース、ちゃぶ台付きの小上がりなど、日常の延長として自在に使える空間をちりばめた。
さらに、西日本豪雨の経験から有事には定員を増やせる構造にし、念願のエレベーターも設置。
実は音戸の瀬戸を通るために船体スペックは旧船とほぼ同等だが、空間の知恵によって劇的な変化を遂げた。
領域を横断するデザインの力が、瀬戸内の海に新しい風景を切り拓いた、彌中氏にとって忘れられない記念碑的作である。

クルーズフェリー「SEA PASEO」


デザインを考える時のアイデアや技術はどのようにインプットされていますか
彌中氏のデザインへのインプットは、日常の変幻自在な実践の中に溶け込んでいる。
毎回まったく毛色の異なる案件が舞い込むため、必然的にその都度、徹底的なインプットを求められるのだ。
「やったことがない」は通用しない。
船の設計からお菓子のパッケージまで、クライアントの懐に飛び込み、共に伴走するプロセスそのものが、自らを鍛え上げる最大のインプット源となっている。
また、独自の哲学を持つ「GKデザイングループ」という濃い環境も、本質を見失わないための糧だ。
一方で、激しく変化する現代のトレンドや新材料のキャッチアップには、能動的な努力を惜しまない。
過去に当たり前のように設計図に描いていた材料が、今では手に入らないことも日常茶飯事だからだ。
不易流行――。
守るべき普遍的な本質は、環境の中で自然に血肉化し、変わるべき不確実な時代性は、貪欲に自ら掴みに行く。
それが彼のインプット術である。

広島アストラムライン「ASTRAM 7000系」

持続可能な建築の未来とは
持続可能な建築の未来を語るとき、彌中氏の視線は建築単体ではなく、その足元に広がる「土木」へと向けられる。
ビルの省エネやカーボンニュートラルは専門家に委ねればいい。
GKの歴史を背負う彼が果たすべき責任は、乖離してしまった「土木と建築の融合」だ。
「人の命を守るため、5センチの狂いは誤差」とする大雑把な土木と、「3ミリの狂いも許さない」きめ細かな建築。
現在、両者は背を向け合い、制度も管轄も分断されている。
その結果、壁面にプランターを並べただけの緑化建築や、自然の中にいびつに挿入された構造物が増えてしまった。彌中氏が理想とするのは、工学と美学が一体となり、自然に溶け込んでいた明治期のダムのような美しさだ。
激甚化する災害に対し、「これが起きるから、とりあえずこれを作る」と場当たり的にコンクリートを継ぎ足していく先進は、持続可能性ではなくただの「諦め」の連鎖にすぎない。
土地のメカニズムを空間として捉え直し、地面から建築へと美しく流れるように繋いでいく。
領域の境界を超えたその先にこそ、私たちが諦めずに、主体的に関わり続けられる真の持続可能な環境が立ち上がる。

ひろしまスタジアムパーク 「HiroPa」
〜あとがき〜
取材した後日に、SEAPASEOに乗船してみました。しかもなんと、彌中氏自らが船内を案内してくださると言う、願ってもない船旅。「海に浮かんで動く公園」甲板はまさにこの言葉があてはまるような、至る所にくつろぎスポットが用意されており、また、爽やかな日差しと風が舷側以外にも届くよう、中央部は吹き抜けとなる設計でした。船内に入りまたさらに驚き。用途に応じてリラックスできるように、座ったり寝転んだりした際の目線でも瀬戸内の海原や多島美を楽しめるように設計された窓、言葉でお聞きしていた、フードコートやちゃぶ台と小上がり、車椅子の方でも船内へ入れるように設置されたエレベーターがありました(詳細は末尾に記載の瀬戸内海汽船SEAPASEO特設ページへのリンクからご覧ください!)。海上移動の手段としてのフェリーではなく、瀬戸内海を楽しむという強いコンセプトが感じられ、斬新で快適で画期的。筆者がこれまで頭の中にあったフェリーのイメージは、どこにもありませんでした。とても記憶に残る船旅となりました。
帰りには弊社オフィスへお立ち寄りいただき、目の前のレストランでランチをご一緒させていただきました。




株式会社GKデザイン総研広島 https://www.gk-design.co.jp/dsh/
瀬戸内海汽船 シーパセオ特設ページ https://setonaikaikisen.co.jp/seapaseo/
※このページ内の情報は、取材当時のものであり最新のものと異なる可能性があります。
